仙台を拠点に、全国の企業やブランドのデザインを手がける鮫島さん。ディレクターとして培った俯瞰力と、プレイヤーとしての繊細な表現力を併せ持ち、コーポレートサイトからSaaS系のUIデザインまで幅広く活躍しています。「世界観を1秒で伝える」ことを軸に、ロジカルかつ誠実な姿勢で信頼を築き続ける鮫島さんに、お話を伺いました。
憧れだった“つくる仕事”へ。独立がもたらした転機
—— 鮫島さんは、いつから仙台を拠点にされているんですか?
鮫島さん:5年前に仙台に移住してからです。
妻の実家が仙台で、僕もとても気に入っていたので、引っ越してみました。そしたらますます気に入って、家まで買っちゃいました。
僕は東京で育って、地方に住んでみたいなっていう気持ちがずっとあったんです。独立して、「どこでも働けるじゃん」と思いまして。
—— 鮫島さんは2020年に会社を立ち上げたんですよね。
鮫島さん:そうですね。ただ、フリーランスになったのは9年前です。会社員の頃はディレクターをしていましたが、フリーになってからはデザイン業務が中心です。
—— では独立をきっかけに、ディレクターからデザイナーに転身されたのですか?
鮫島さん:はい。会社員時代、ディレクターをやりながらも、デザインとかプログラミングとか、“作る側”にまわってみたいとずっと思っていたんです。というのも、僕はデジタルクリエイティブを学べる専門スクール「デジタルハリウッド」出身なのですが、在学中に先生からディレクター職を勧められたんですね。
それまで楽しくデザインの勉強をしていましたが、その勧めもあって「やってみるか」で、ディレクターになったんです。
たしかに向いていたんですが、やっぱりずっと作る側に憧れがあって。独立を機に、思い切ってスイッチしたという流れです。
—— 結構、思い切ったジョブチェンジですよね。指示するのと手を動かすのでは勝手が違うというか……。
鮫島さん:そうですね。ただ逆に、「ディレクションのできるデザイナー」という強みにもなっています。なんと言っても憧れていましたから、ディレクター時代はデザイナーやエンジニアの仕事を結構じっくり眺めていたんですよ。「どうやって作ってんのかな…」って。その時の知識が蓄積されているのも心強いんです。
あとは、会社員時代にちょこっとデザインの副業をしていて。その経験も、自分がデザイナーとしてやれそうかどうかの判断材料になりましたね。
—— デザイナーをやっててよかった、と思う瞬間はありますか?
鮫島さん:単純かもしれませんが、「お客さんが喜んだ時」と「その先のユーザーさんの反応を見た時」です。そこでようやく、ふわっと報われたような気持ちになります。
プロダクトが完成した時って、本当に満足してもらえるのかまだ確証がないんです。自分の主観で作っているものなので、果たしてこれで本当に良かったのかな、っていう問いは常にあって。
そんななか、お客さんがすごく喜んでくれると、ストレスがスーッと消えていきます。
独立初期を支えたクロスデザイナー
—— フリーランスとして独立する前はどんな働き方をしていましたか?
鮫島さん:3社ほど経験しましたが、かなりホワイトな勤務時間の時期もあれば、めちゃめちゃに働いている時もありました。1日に12時間以上働くことも普通でしたね。
単純に、仕事が終わらなくて…って日もありましたけど、「今いい感じだから、もうちょっとやろう」で、長時間働くことの方が多かったと思います。好きでやっていたので気持ちは苦しくなかったんですけど、まあ体は疲れますよね(笑)
僕が独立して感じたのは、収入、時間、働く場所をすべて自分でコントロールできるようになったことです。フリーランス=「収入が増える」「環境が良くなる」というよりは、「自分で舵をとれる」という実感が強いですね。
—— 一般的な独立前の不安として、“案件を安定的に獲得できるか”という声をよく聞きます。鮫島さんも心配でしたか?
鮫島さん:もちろん、不安はありました。
しかし独立した時には、ディレクター時代の恩恵から人との繋がりが多いほうだったんです。なので、紹介、紹介で、なんとかここまで来られました。本当に、うまい具合にいいタイミングでお仕事をいただけて……。
クロスデザイナーに登録したのも、実は、会社員の頃に仕事で出会った方の紹介がきっかけなんですよ。
—— 鮫島さんのようなオールラウンダーでもクロスデザイナーの仕組みは便利に感じますか?
鮫島さん:(笑)はい、便利ですよ。とくに最初の契約部分ですね。報酬や稼働時間だったり、僕の希望を聞いてクライアントに伝えてくれるので。そういうすり合わせをすべてお任せできるのは、とても助かります。
—— クロスデザイナーの案件で印象的だった出来事はありますか?
鮫島さん:クロスデザイナーにはデザイナーとして登録していますが、実装まで求められることもあるんです。そんな時は、プログラミングスキルがあって助かったな、とか。
あとは、担当者さんとやり取りする機会では、ディレクション経験がここでのコミュニケーションに一役買ってくれていると感じます。
「デザインだけじゃなくて、全体的にまるっとできる」という点で、僕を重宝してくれるシーンが印象的でした。「鮫島さんにまるっと任せればいいや」みたいな。ポジティブな意味でそういう風に言ってくれたりもするので、嬉しく思います。
—— いい意味で全てを任せられるデザイナーって、確かに貴重な存在かもしれません。
鮫島さん:そうなのかもしれません。あの、担当者の方のあいだで……、これはちょっと自分で言うのは恥ずかしいんですけど、「鮫島さんにお願いしたい」と言っていただくことが多いようで。実際、複数のデザイナーで進めていたプロジェクトでも、最後まで残って担当させていただいたことがありました。そういう形で評価してもらえるのは、本当に嬉しいです。
1秒で伝わる“世界観”をつくる
—— 鮫島さんはデザイン全般で幅広く活躍されていますが、一貫して大切にしていることはありますか?
鮫島さん:どんなサービスでもモノでも必ず“世界観”があるんです。
その世界観をいかに表現するかを一番大切にしています。ブランディングに近い考え方ですが、ぱっと見た瞬間に「この商品の良さ」が伝わること。そして、その軸がぶれないようにすることを、いつも意識しています。

—— マーケティングの視点ということでしょうか。
鮫島さん:マーケティングとはまた少し違っていて、もっと“ぱっと見の1秒の印象”の話なんです。ペルソナやターゲットを踏まえた上で、お客さまとしっかりヒアリングを重ねていくと、そのブランドやサービスならではの「世界観」が必ず浮かび上がってきます。
それを形にすることは、何よりも大事にしたいんです。
—— クライアントから世界観をブレさせるようなオーダーが来てしまうことってありませんか?
鮫島さん:ロジックをしっかりつけて、「こういう理由で、こういう世界観にしました」と上流の構成から丁寧に説明すると、すごく喜んでいただけますよ。難しい話ではなく、ほんの数枚のシンプルな資料なんですが、それを見せるだけで相手の理解度や納得感がまったく違ってきますね。
—— 鮫島さんのディレクション力と、“コミュ力”ですねえ……!
デザインの価値観を、地方から変えていく
—— 社会に対して、デザインが果たせる役割は何だと思いますか?
鮫島さん:まず、企業やサービスの「本質」や「根本的な課題(インサイト)」を見極めて、適切な視点からアプローチし、解決へ導くことこそが、本来のデザインの役割だと思います。
あとは、今って“距離に縛られない時代”になったと感じていて。
オンラインの普及によって、場所を問わず全国の企業や人とつながれるようになって、デザインの影響範囲は大きく広がりました。「同じ場所にいなくても、企業の価値を引き出せるよ」ということを、デザインの仕事を通じてこれからも伝えていきたいと思っています。
「発見」という意味でも、すごく遠くにあるモノだって、デザインの力があれば視覚的に人を惹きつけることができるんですよね。
鮫島さん:あとはちょっと逸れますが、地方のデザイナーの単価の低さをどうにかしたいです。
—— 地方のデザイナー単価は、今も低いと感じますか?
鮫島さん:僕が仙台に移住したばかりの頃は、正直めっちゃ低かったです。
けど、仙台でいろいろな企業さんと知り合うなかで、少しずつ変わってきてはいます。
最近の話なのですが、僕があるクライアントに、仙台では通常考えられない見積もりを出したんですよ(笑)。でも、それを「ちょっとやってみたい」って言ってくれて。それで実際作ったら、担当者さんに「鮫島さん。僕の中でwebサイトの価値がブレイクスルーしました」って、言ってもらえたんです。
こういう仕事をコツコツして、たくさん広めていって、デザイナーの単価というか、クリエイティブの価値を上げたいんです。これはクロスデザイナーのビジョンとも通じるところがあるんじゃないかと思いますね。
—— 最近は、東京でスキルを磨いた人が全国各地で活躍していますもんね。
鮫島さん:そうなんです。そういう人と出会えるのはクロスデザイナーの利点ですよね。普段ならつながることのない人たちと出会えるのは、とても魅力だと思います。
あとクロスデザイナーって、登録者や案件がデザインに特化していますよね。実際に質の高いクライアントやデザイナーと出会える可能性が、他社よりも高いんじゃないかなと思いますね。
これからも「つくり続けるデザイナー」でいたい
—— 最近の鮫島さんは、どんな働き方をされていますか?
鮫島さん:その時の案件次第ですけど、平日1日だけ休んだり、状況によってです。基本的には時間に余裕があります。
—— 1日12時間働いていた時期もある鮫島さんですが、今は余裕があってどうですか?
鮫島さん:いや、やっぱいいなって思います(笑)!
時間に余裕があることは、めちゃくちゃいい。毎日午前中から稼働して、あとは5歳の子供のお迎えに行ったり。もし1人だったら今も遅くまで働いてるかもしれないですけど……、昔ほど体力がないです。寝ないとダメですね。
—— 今後のデザイナーとしてのビジョンをどう考えていますか?

鮫島さん:基本的には、プレイヤーでいたいと思ってます。
PM(プロジェクトマネージャー)にステップアップしていく方も多いですが、自分にはあまりしっくりこなくて。
とはいえ、ずっとデザインだけを続けていくのも現実的には難しい部分もあると思います。なので、今後は「自分が周りから求められるスキル」を見極めながら、必要に応じてシフトしていけたらと考えています。
—— これから伸ばしていきたいスキルはありますか?
鮫島さん:これまではコーポレートサイトなどのWeb制作を中心にやってきたのですが、最近はSaaS系のUIデザインの案件が増えてきていて、今はその領域がとても楽しいですね。
なので今後は、SaaS系のUIデザインスキルをより伸ばしていきたいと考えています。実際に進行中の案件もあるので、学びながら実践しているところです。
あと、とくに興味があるのが「デザインシステム」の構築。
これはサービスの“世界観”にも通じる部分で、たとえば有名なプロダクトには必ず、ブランドカラーやフォント、コンポーネント(部品)といった統一されたルールがあります。その一貫性があるからこそ、デザイン全体が破綻せず、ユーザー体験も統合されたものになるんですが……。
このデザインシステムを作るには、包括的な知識と経験が必要で、主にシニアデザイナーが担う領域なんですよね。自分も今後はそうしたシステムを構築できるようになりたいです。
── ブランディングに直結するスキルですよね。
鮫島さん:はい。単なるUI設計にとどまらないので、価値の高いスキルだと思っています。
とくにSaaS系のサービスでは、このデザインシステムが前提にあることが多いので、その知識をさらに深めていけば、より高単価で仕事ができるようになるとも感じています。
言ってみれば、デザインシステムを構築できるようになるのは、ひとつの到達点のようなものだと思います。単価を上げるためにPM職を目指す人も多いですが、やろうと思えば、デザイナーとしてでも十分に価値を高めることはできますよ。
信頼は“マメさ”から。フリーランスに必要な力とは
── フリーランスを目指す方、仕事を継続するために大切なことは何だと思いますか。
鮫島さん:自分も思い当たるのですが、独立を迷っている人がいるとしたら、「自分のスキルに自信が持てない」ということなのかなと思います。
僕自身も、まだデザインのレベルがそこまで高くない時期に案件を紹介してもらったことがありました。そこで、まずはやってみることが一番大事だと感じましたね。
実際に飛び込んでみて、もしスキルが足りないと感じる場面があっても、その都度必死に努力して身につけていけばいい。というか、それしかないと思いますね…。僕はもともと挑戦することが得意というタイプではないですが、それでも“一歩踏み出す”を繰り返すことで、確実に成長できました。
── とにかく、やってみることに尽きますね。
鮫島さん:あとはスキルだけあっても、フリーランスとして長く続けるのは難しいと思います。
やはり、コミュニケーション能力が備わっていないと、継続的な信頼関係を築くのが難しいんです。実際、スキルの高いデザイナーでも、返信が遅かったり感情的になってしまったりと、コミュニケーション面でつまずくケースは見かけます。
── 鮫島さんが多くの企業から求められる理由の一つは、やはり高いコミュニケーション能力にあるのではないでしょうか。
鮫島さん:そうだと嬉しいです。クライアントに納得してもらうためには、1回のヒアリングをして成果物を見せるだけでは不十分だと思っています。なので、プロジェクトの各工程で丁寧にコミュニケーションを取りながら進めていくように心がけていますね。
すると、クライアントも「こんな工夫がされているんだ」と理解してくれます。
── 技術だけでなく、人との関係づくりも仕事の一部なんですね。
鮫島さん:そう思います。せっかくなので最後にお伝えしたいのですが、もし対人コミュニケーションに自信がない場合でも、工夫次第で補える部分ってたくさんあるんです。
たとえば返信スピードを意識したり、チャットでこまめに報連相をしたりと、僕がいつも気をつけているのは、そういうマメなやりとりなんです。
コミュニケーションって、必ずしも「長くうまく話せば成功」ではないと思います。
だからフリーランスになりたい人は、「自分はコミュ力がないから無理」と思わなくて大丈夫。やり方次第で、誰でも信頼されるコミュニケーションは身につけられると思いますし、そうした小さな努力の積み重ねが、結果的にクライアントからの信頼につながると思っています。
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インタビュー、記事構成、SEOコンテンツなどの企画・制作に携わり、カルチャー、ライフスタイル、クリエイティブ領域を中心に執筆。企業・個人問わず、活動の根底にある“なぜ“を言語化し、読者の理解と共感につながるコンテンツ制作を大切にしています。
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